峠を越えた山あいに、小さな鉱山村があった。
村人たちは山から採れる鉱石を町へ売り、暮らしを立てていた。
朝になれば坑夫たちは家族に見送られて山へ入り、夕暮れには煤と土にまみれて帰ってくる。
その日も、いつもと変わらぬ朝だった。
坑道の奥では、十七人の坑夫が新しい鉱脈を掘り進めていた。
「この先、いい筋があるぞ」
先頭の坑夫が声を上げた、その時だった。
足元から低い唸りが響き、次の瞬間、地面が跳ね上がる。
轟音とともに岩盤が裂け、坑道が崩れる。
松明は消え、出口へ走ろうとした坑夫たちの前を土砂が塞いだ。
やがて暗闇の中から、仲間を呼ぶ声も一つ、また一つと消えていった。
村にも地鳴りは届いていた。
坑道へ駆けつけた家族たちは、夫や父の名を呼びながら岩を退けようとした。
だが村に残るのは老人と女子供ばかり。
坑道は今なお崩れる恐れがあり救助へ入ることさえできなかった。
「おとうは、いつ帰るの」
父の弁当包みを抱いた子供の問いに、母親は答えられなかった。
日が落ちても、十七人は戻らない。
崩れた坑道の奥からは、時折、何かが動くような音だけが聞こえていた。
誰にも、その正体は分からなかった。
ただ、帰らぬ家族を待つ者たちは、日が暮れても坑道の前を離れられなかった。
その気配は峠を越えた街道を行く玄道とおさきのもとにまで届いく。
何かが山で起きている、急がなければならない。
そう感じた玄道は、おさきとともに皆を集めることにした。
まずは峠の茶屋へ向かい、事情に詳しい老婆から話を聞くために。
