【イベント】少年探偵バシネ・ルクレール 「海賊祭りと錆びた宝箱」(後記)

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潮の匂いを含んだ風が、岬へ続く細い道を吹き抜けていた。

ガルド・ヴェインは古びた宝箱を担ぎ、海辺の町や小さな漁村を渡り歩いた。
箱の中に収め直された金細工の目録には、乗組員一人ひとりの氏名、出身街、非常時の連絡先、
今回の報酬、認識票や手紙などの預かり品が記されていた。
ガルドは、その記録を頼りに帰ることのできなかった船乗りたちの痕跡を探した。

ある家では、年老いた女が錆びた認識票を両手で包み込んだ。
ある村では、船乗りの名を継いだ若者が、初めて見る祖先の手紙を何度も読み返した。
受け取る者がすでにいない品は、家族の墓や、かつて暮らしていた土地へ納めた。

ガルドは礼を求めなかった。
品物と名前を確かめ、確かに届いたことを見届けると、長居をせず次の町へ向かった。

一つ届けるたび、該当する記録から淡い光が消え、宝箱を覆っていた赤黒い錆が、薄い鱗のように
剥がれ落ちた。

道の途中で何度も雨に降られた。
船の出ない日には安宿で認識票を磨き、目録の読みにくくなった文字を灯りへかざした。
名前しか残っていない品もあったが、ガルドは捨てなかった。
港の古い記録をたどり、酒場で年老いた船乗りを探し、わずかな手掛かりを次の土地へつないで
いった。

季節が一つ変わるころには、重かった箱も片腕で持てるほどになっていた。
それでも足取りを速めることはなかった。
最後の一つまで届けなければ、終わったことにはならないからだ。

長い旅の末、箱の中には金細工の目録だけが残った。

最後まで光を残していた頁に記されていたのは、沈没船の船長の名前だった。
だが、帰りを待つ家族はなく、故郷の家もすでに失われていた。

ガルドは船乗りたちの慰霊碑が立つ岬へ向かった。
海は穏やかで、沖を行く帆船の影が夕日の中へゆっくり溶けていた。

「最後は、てめぇか」

ガルドは慰霊碑の前で目録を開いた。
船長の名から光が消えると、白紙だった最後の頁に船の名と乗組員全員の名前が浮かび上がった。

「遅くなっちまったが、これで全員だ」

返事の代わりに波が岩を打った。
ガルドは目録を閉じ、慰霊碑の前へ静かに納めた。
風に押された最後の錆が、宝箱から剥がれ落ちる。

ガルドは空になった箱を担ぎ上げた。しばらく海を眺めたあと、帽子を深くかぶり直す。

岬を下りる道の先には、次の港へ向かう船が見えていた。

「さてと。今度は何を運ぶことになるやら」

そう呟くと、ガルドは一度も振り返らず、潮風の中を歩いていった。