トリンシックの防護壁は、腕利きの工夫たちによってものの数日で完成したようだ。
できることなら全ての街に設置したい位だったが、これが限界だろう。
陛下はというと、トリンシック首長から提出された報告書を持って書架に向かわれたきりだ。人払いを命じられたため、書架にいるのはわたしと陛下のみ。
何時間も続いたペンを走らせる音が、大きな溜息とともに途切れる。
……そろそろ頃合だろうか。
「陛下、お疲れではありませんか。少しお休みになられては……」
「いや、構わぬ。ベルナルドよ、そなたは今回の一連の流れ、少しおかしいと思わぬか」
おかしいと言えば最初から何もかもがおかしかったではないか。
エクソダスがあの日倒されたのは誰もが知っている事実だ。奴らがどれだけ高魔力の結晶を作ろうとも、もはや復活するすべなどないはずだ。
それに対抗するという魔導兵器というものも、どうにもうさんくさい。
エクソダスと同じ魔力の回路を使うとの話だったが、実際使い物になるのか知れたものではない。
……どうもわたしはポーカーフェイスというものが苦手らしい。
苦笑された陛下は、書物の上に乱雑に束ねられた紙を指差した。どうやら読んでみろということらしい。
*エクソダスの研究*
勇敢な冒険者達により、初期の最強個体であったエクソダスは討伐された。
しかし、今もヴァーローレグに潜む機械仕掛けのエクソダスは再生を繰り返し、何度討伐しても儀式により再び復活を遂げている。
だが初期のエクソダスよりは明らかに戦闘力や魔力が劣っている。
なぜだ?戦闘を繰り返せば、より強くなっていくものではないのか?
研究を進めれば進めるほど謎が深まっていく。
研究を進める中、エクソダスを神として崇め復活を妄信する集団に接触された。
仮に「狂信者(Fanatic)」とでも呼ぶことにしよう。
彼らは一風変わったローブを纏い、「個」というものを極端に薄めた集団だった。
そう、まるでひとつの生命体のようだ。非常に興味深い精神構造だが、今は彼らの背景まで探っている時間はない。
*破損により解読不可*
彼らは高魔力の結晶を使い、位相世界に漂うエクソダスの情報破片を集めれば、完璧なエクソダスを復活させられると信じているようだ。
安定力には欠けるが、エクソダスのあの圧倒的な戦闘力を基に作られただけはある。
魔力をほとんど持たないものであっても、これを使えばどんな強力な魔法も容易に操ることができるだろう。
*破損により解読不可*
あの結晶があれば、エクソダスの復活などという荒唐無稽な話も現実味を帯びてくるから不思議なものだ。
しかし、そんな目的のためにあの膨大な魔力を使い果たすなどばからしい!
私は研究者であって、狂信者ではない。エクソダスを復活させるロジックは興味深いが、実行する気などさらさらない。
あの結晶はもっと有益に使えるもの……つまり、私が貰い受けるとしよう。
*破損により解読不可*
どうも彼らの監視の目が厳しくなってきているようだ。結晶を持ち出すことは出来そうにない。
さしあたり、結晶を隠しておいて私は姿を消すこととしよう。
まさか、ヴァーローレグのあの場所に隠してあるとは思うまい。後でゆっくり回収に来れば良いのだ。
*ページは赤黒く染まっている*
「……あの狂人どもに協力した研究者がいたということですか」
思わず声を荒げたわたしをとがめることなく、陛下は頷かれた。
「トリンシック首長とライキュームに解読を依頼した資料の一部だ。あの我らが”コア”と呼んでいる高魔力の結晶は偶然の産物等ではなかったようだよ。エクソダスを復活できるかはさておいても、魔力を蓄積するという理論においては、非常に綿密な実験と検証に基づいている。……妄言と片付けるには、どうにも根が深くなりそうだ」
……狂人どもに知恵をつけた奴らがいたということか。
魔術に疎いわたしにもわかるくらい、あの”コア”の魔力は凄まじいものだった。
そう考えるとトリンシック首長が”コア”を発見し回収できたことは、不幸中の幸いと言うべきだろう。
そして、”コア”を奪われた狂信者どもが死に物狂いで奪還に向かってくるであろう事も頷ける話だ。
再び響きだした不規則なペンの音を聞きながら、わたしはクロークの下で強く剣の柄を握り締めた。
開催日時:8月1日(土曜日) 22:00~
集合場所:トランメル・ブリテイン ブラックソーン城前の橋
※当日はEMホールから集合場所からまでのゲートをご用意致します。
《イベントにご参加の皆さまへ 注意事項・お願い》
◆ イベントチャンネル “Asuka EM Event” にお入りください。
◆ なるべく貴重品は持ち込まないよう、お願いいたします。
◆ 当日は戦闘準備のうえお越しください。
◆ 以下に該当の場合、あるいはEMが問題ありと判断した場合はコールのうえ、
イベント中止の措置を取らせていただく場合があります。
– イベント進行の妨害、かく乱行為。
– EM、作者様、あるいはほかのプレーヤーに対する侮辱的発言、またはそれに準ずる行為。
◆ ロールプレイ中は、ロールプレイキャラクターの周囲を空けてくださるようお願いいたします。
◆ ロールプレイ中の戦闘詠唱のご使用はご遠慮ください。
◆ 皆さまのイベントです。マナーを守って楽しく参加しましょう!
◆ 本イベントはガード圏内で行われます。圏内での魔法は使えません。どうぞご留意下さいませ。